先日、『江之浦測候所』に行ってきました。
名前だけ聞くと、はて?となるかもしれませんが、
カテゴリー的には美術館の類にあたると思います。
「測候所」の本来の意味は、
その地方の気象を観測し、天気予報・暴風警報などを発し、
また地震・火山(の噴火)の観測をする所
らしい。
確かに、夏至や冬至、春分や秋分の日の出入り、月の出入りなど、
自然のリズムが計算し尽くされていて、それらを展望できる場所。
訪れてみると、「測候所」と名がついたのも頷ける。
一応、入場の際にいただくパンフレットには、
1〜60の見所を順番に記してくれてあるのですが、
その順番どおりに周ってください、ということではなさそう。
わたしは、最初に「待合棟」と呼ばれる建物の中にあるお手洗いに寄ったので、
その斜め向かいの「夏至光遥拝100メートルギャラリー」から鑑賞をスタートしました。
ここには、創設者である杉本 博司氏が、日本をはじめ、世界各地の海や湖を舞台に、
水平線を中央に据えた同じ構図で撮り続けた<海景シリーズ>が並んでいる。
上半分は空、下半分は水面。
そして、全てモノクロ。
なのに、一つ一つ全く表情が違うことに驚きながらも、
写真だけではどこで撮影したものかわからない。
が、タイトルはシンプルに撮影した場所です。
入口から、
1. カリブ海、ジャマイカ(1980)
2. リグリア海、サビオレ(1993)
3. スペリオール湖、カスケード川(1995)
4. ボーデン湖、ユトビル(1993)
5. エーゲ海、ピリオン(1990)
6. ティレニア海、コンカ(1994)
7. 日本海、隠岐(1987)
という並び。
順番に鑑賞していった先で、
「あっ、日本の海だ」と思ったわたしの左手にテラスがあって、
そのテラスに出ると、視界いっぱいに相模湾が広がっていた。
「あっ、青い」
幾種類もの青が目の前に飛び込んできて、涙が止まらなくなりました。
四角に収められた景色を切望する、
その目の前で360°の絶景が広がっていることを
忘れてはいないか。
そう問われているようだった。
美術館の類でこんなに泣いたのは初めて。
この景色が作品、もしくは、SNSの投稿になるのなら、
相模湾、江之浦(2025)
というタイトルにでもなるのだろうか。
日々、いつの間にか、自分の目の前に広がるタイトルなどつかない風景を、
四角の中に収まる誰かの投稿より劣ったものとして見ていることに気づいてハッとした。
もちろんさっきの問いはわたしの中から聴こえてきたものであって、
撮影の意図は全く違うのだろうし、
どんな思いがあってこのような作品の配置になったかはわからない。
だけど、わたしの中では、つい誰かの投稿に心を揺さぶられる自分、
小さな四角の中にのめり込んでいってしまう自分に、
少し目線を上げれば(逸らせば)、こんな絶景が広がっているんだよ!
と言ってくれているようで、ものすごく救われたのでした。
わたしたちは、海を写すこと、海を描くことはできても、
海そのものを創り出すことはできない。
そんな自然の偉大さを思い出すことができる場所。
杉本氏の自然への敬意を感じて、ものすごく胸を打たれた。
今回は初めての訪問だったので、
敷地内をたくさん歩いていろんなものを目に焼きつけましたが、
次はボーーーッとしに行きたい。